気持ちはわからないでもないんだけど、シリアスな場面になればなるほど「おなかの中の変な小人」(と彼女は呼んでいた)が大騒ぎを始めて笑わずには居られない、と。 芝居中に笑い出して、それにつられて相手役も笑っちゃったり、怒ったり。
彼女の言い訳を聞いてみると、みんなが口を揃えて
「それは笑うあんたが悪い!」
だって、怒りや涙の場面を演じている人の鼻の穴がひくひく動いてるとか、そういうところばっかり見てるんだもの・・・
しかし、笑っちゃいけないと思えば思うほど笑えてしまうというのは、ドリフのお葬式のコントじゃないけど、本当にあるんだ、と、今日始めてその笑い虫をお腹に飼っていた同期のことを理解できる状況に遭遇しました。Aちゃん、ごめんよ。きみの気持ち、今は痛いほどわかる・・・
今年はじめの入院後、一応復帰はしたものの相変わらず薬漬けの日々で、どうにか体質改善しようと市内のあるクリニックに行ってきました。予約してから待つこと1ヶ月、ようやくの診察です。 よく知らなかったのだけれど、有名なお医者さんなんですね。
診察にすごく時間をかけて下さって、西洋・東洋両方の観点から診断をする、ということで、問診の後にベッドに横になって触診やつぼを押したり、腰のゆがみを見たりしました。 ベッドの端に小型のハンマーのようなものが置いてあって、あれってどこかで見たことがあるけどなんだったっけな・・・と思っていたら、脚気の診断に使うものでした。それでひざをこんこんとやると、正常ならひざから下がぴくん!と反応する、アレです。
ところが、このハンマーで叩かれて足がカクンと飛び上がるのを見ると、笑い出さずにはいられないという困った癖が私にはあるのです。脚気の検査なんて随分やってなかったから、すっかり忘れていた・・・。
案の定、先生がトントンとやった瞬間から笑いが止まらなくなって、看護婦さんも先生も「???」と不思議そうに私を見つめる。見つめられれば見つめられるほど、笑いが止まらない・・・ なんとか笑いを抑えて、よろよろといすに戻った私に追い討ちをかけるように、先生は
「あ、あれ採ってきて、ちょっと外暗くなっちゃったけどなぁ」
と看護婦さんに言い、看護婦さんは 「はい、あれですね」と外に出て、すぐ葉っぱを2枚持って帰ってきました。
「どくだみです。」
ここのところアロママッサージを受けて、どくだみはハーブとしてもよく使われることを知っていたので別に驚きはしなかったのですが、先生はくるくると葉っぱの先を丸めて手でゆっくりしごいて先端をシナシナにしながら、
「これはね、日本で一番使われている薬草なの。どこにでも生えてるからお宅にもあるかもしれないけど、これをこんな風に少し手でほぐしてね、はい、鼻につっこんで。」
「は、はなでぶが・・・」
ふがふが言っているうちに、どくだみの葉っぱを片鼻に差し込まれました。
「(副鼻腔は)頬の方に広がっているから、鼻に詰める時は目のほうに、上に向かって入れるよりも、鼻に対して垂直に突っ込むほうがいいんだ。」 と、先生はよくわからないところで力説し、それから10分ほど、私は方鼻から緑の葉っぱをにょっきり出しながら残りの診察・検尿・採血・会計をすることになったのです。
この状態で笑わないでいられる方がおかしい。 なにより凄い(笑える)のは、片方の鼻から葉っぱが飛び出ている人に対して普通に採血をして、真面目に漢方薬の飲み方を説明できる看護婦さんと、 片方の鼻から葉っぱが飛び出ている人に対して普通に次回の来院予約を取って、会計ができる受付のお姉さんでした。
私は、片方の鼻から葉っぱをかなりはみ出させながら、笑わないようにひくひくして、その自分の様子をもし鏡で見たら死ぬ、と余計な想像をして笑いがこみ上げ、ひきつけを起こしそうになりながら会計を終えたところで、先生がぶらぶらと診察室から出てきて
「じゃ、そろそろ取ってみるか」
と言って下さったのでした。
しかし、そこにいた看護婦さんたちが一斉に注目し、その効果にわくわくしながら見守る中で、そろそろとどくだみを鼻から出す羽目になったのです。それまで、ほかの看護婦さんたちは、葉っぱの私に「がんばって」とか「もうちょっと辛抱ね」とか、苦しい検査を受けているみたいに声を掛けてくれるのですが、別の意味で確かに試練と言ってもいい体験でした。
しかし、どくだみ効きます。すっとして、鼻が通る。 診察中に先生が
「アレルギーはねぇ、ストレスなんかも原因になってることがあるから、完ぺき主義はやめるとかね、よく笑い、感動したり、祈りなんかもいいんだよ」
とおっしゃっていたのですが、さっそく「よく笑い」を実践させるところが只者ではないです。 ほかにもつっこみどころはたくさんあって、なんとも型破りな病院ですが、先生は今までの中で一番信頼できる気がしました。