帰ってきたら玄関に袋がぶら下がっている。中を見ると酒粕。水曜日のアトリエ、Hさんが置いていって下さったのでした。甘酒を作る。うま~
わたしは車のタイヤ交換を自分でする。そう話すと、大概の反応は2種類に限定される。驚愕、そして懐疑。Stupeur et tremblement. まずは「え!自分でやるの!?」とのけぞり、やがて「ほんとに大丈夫?走っててタイヤが外れたりしない?」などと、わたしのナット締め能力をあからさまに疑問視する。 C'est pas la question, na !!
今までこのステレオタイプな反応をしなかったのは例によってナビ氏のみで、普段から巷の女子が黄色い帽子等にマイカーを持ち込んで交換したり、お父さんに替えてもらったりしているのを密かに快く思っていなかった彼は、わたしが自分でタイヤを替えるのだと知った時「よしよし」と思ったらしい。変わった人だ。
今年は勤労感謝の日が晴れていたのでタイヤ交換をしてしまった。だから今日のように窓の外で霰が跳ねていたりしても余裕で「ピープル アー ストレンジ ウェン ユー アー ア ストレンジャー なーななーん」などと歌いながら踊ったりした。
以前美容室に行ったときに、いつも担当してくれているFさんと、休日にどういう所に出かけたりするかという話になった。わたしはもう全然「夜景の見えるおしゃれなレストランでデート」とかに食指が動かないし、寧ろそういうのを用意されたら結構引くわぁと言うと、いわゆる池面のF氏はカットの手を止め、ふしぎな感動を湛えた目つきでまじまじと鏡の向こうのわたしを見つめ、
「いや~手がかからなくていいなぁ。それって男にとってはすごくありがたいっすよ。」
と言った。それはあまりにも心の底から湧き出たようなトーンだったので、一瞬あらぬ苦労を想像しそうになった。苦労してんのか。苦労してんだな。 「手がかからない」・・・はて、どこかで聞いたような、と思ったら、タイヤを替えていた時に隣のおじさんが
「お~、まりちゃん自分でやってんだねぇ。手がかからんでいいねぇ~。おじさんのも替えてくんねかね~」
言われたのを思い出した。 奇妙な符号。 そもそも「手がかからない」とは賞讃なのか非難なのか賞讃と見せかけた侮蔑なのか侮蔑的賞讃なのか。やはり、おされなレストランでディナーとくれば平均的女子心はときめきくものと相場が決まっている。誰が決めたのか知らんが決まっているのだ。それが証拠に、あらゆる雑誌が定期的に「デートの勝負レストラン」特集をするではないか。ということは、そこを求めない姿勢は女性として大切ななにかが欠落しているということで、落伍者の烙印を押されても仕方がないのではないのか。というより、フランス語を教えているくせにフランス料理を堪能してトレボーンなどと言うのが苦手であるのが、すでに大きく道を間違った、いやむしろ、フランス料理人の娘に生まれたこと自体が誤りであったのではないか、もうなんか、生まれてすいません。 と、取り乱して訴えたところ、落ち着いてうどんを啜っていたナビ氏は、
「まあ、おしゃれなフレンチが食べたいのとか言うひとだったら、そもそも付き合ってないんじゃない」
と、のたもうた。 結局、手がかかった方がいいのか悪いのか、益益わからなくなってしまったのだった。
Chacunsegouts : タマムシの一種。人体に寄生するが害はなく、取り付いた人の性別・年齢・体温などにより体表の色が微妙に変わる。 ・・・というのは大法螺で、たまにはまともな解説 ↓ Chacun (a) ses goûts (シャカン (ア) セ グ) = 人にはそれぞれ好みがある、蓼食う虫も好き好き、の意。