ナントで日本人女子学生が意識不明の重体で発見されるという事件があった。 直接の面識はないけれど、同じ日本人として大きな衝撃だった。
パリと違ってナントは時間と場所さえ気をつけていれば危険な目には合わないと、誰もが思っていた。 日本のように夜11時に千鳥足で歩けるような環境ではないということを忘れていた。 何より、周りに溶け込むことだけをずっとずっと考え続けてきて、 周りが自分とは違う「外見」を持った人たちだらけという目の錯覚から、 うっかり自分は「明らかに違った外見である」ということ、 それだけの理由でターゲットになる可能性がある、ということを忘れていた。 日本から来られる家族の方の気持ちを考えると、なんともやりきれない。 わざわざ外国まで行った子供が命を落とす羽目になる、これほど親御さんにとってつらいことはない。これほど親不孝なことはない。 父が、毎度スカイプ終了時に「事故にはあわないように注意しろよ、これだけは本当に注意しろよ、な?」と言うのに、 はいはい、と流していたことがとっさに思い出されて、さー、と血の気が引く思いがした。 「文学部所属の日本人学生で30歳前後」という新聞のキーワードから、私に連絡をくれた友達も、私自身も、私が連絡をした人たちも「自分の知っているあの人では」という鉛のようなにぶい予感がどろりと浮かぶあの感覚、 「アロー?」と電話に出てくれたときの、裂けるような安堵、 連絡のつかない苛立ち、 二度と味わいたくないと思う。みんなそう感じていると思う。 (実際、O兄は泣いていた) これから日本を出て、外国に滞在しようとされる方々へ。 どうかどうか、自分自身の「存在」というものに責任を持って過ごしてください。 「午後10時を過ぎたら一人で歩くには命の危険を感じる」ということのない国に生まれた私たちは、その事実を軽々しく捉えがちです。けれど、あなたが命の危機状態に陥ったとき、なにより家族や友人たちの苦しみは本当に耐え難いものなのです。 こんな苦しみを私は愛する家族や大切な友人たちにはとても課すことはできません。 自分自身の命を大切にすることは、周りの人間を愛することと同じです。 大学からの依頼で日本からやってくる留学生と受け入れるホームステイ側との間の通訳をする。がっつり『自衛』を刷り込んでこようと思います。