一週間のヴァカンス。
2学期が始まって、ここまで約1ヶ月。 どこをどう走ったものか、ふと視線を上げると 日が長くなっているのに気づく。 あと一ヶ月で夏時間だものなぁ。
朝はまだ8時過ぎまで日が昇らないのだけれど、 夕方は18時過ぎまでぼんやり明るい。
朝ごはんの後、 午前中にル・クレジオをあらかたやっつけてしまう間、 洗濯機をまわそうと、ごそごそ。 年代物のドラム式洗濯機は、とにかく時間がかかる。 この家に越してきたとき、すでに これは動くのでしょうか・・・? という疑いのあるものでしたが、 脱水に切り替わるときに、大爆音で驚く他は、 一応きちんと洗濯をしてくれていました。 いつものように、洗剤を入れ、ふたをして 赤いボタンを押す・・・
バシュゥ! ! ! !
ひ、火花が・・・洗濯機から火花が・・・ ブスブス・・・と赤いボタンから黒い煙が一筋。
漫画みたいだ! と、感心している場合ではなく、 その後、電灯以外の全ての電気系統が、 この瀕死の一撃でおしゃかになってしまったことに気がつきました。 ウッドーみたいなやつだ・・・ (ウッドーとはMotherというRPGゲームに出てくる敵キャラで、 ぎょろりとした目を持つ木。自分が完全にやられる瞬間に 自ら燃え上がり、こちらにダメージを与えてくる巻き込み型大迷惑系。)
こういう生活におけるパニックイベントは あらかた経験してきたけれど、 火花はさすがに始めて。 しかし、電気がつかないのは痛い・・・ とりあえず、たよりのKさんに電話し、教えてもらって EDFに連絡するけれど、 契約が大家になっているため、私個人が 修理を頼むことができない。
しかも、電話にでないんだよう、うちの大家さんは! お昼過ぎやっと連絡が取れて、電気屋さんを呼んでもらえた。 しかし、来るのは18時過ぎ。
電気オイルヒーターのみのこの家では お風呂に入る位しか暖を取る手段がない。 寒いってひもじいなぁ・・・そういえば朝カフェオレ飲んで、 バナナ一本食べたっきりだった。 マッチを・・・マッチをかってください・・・ とか言いつつ、とりあえず頼みの綱の携帯の充電をするべく、 VAIOと共に大学の図書館に非難することに。
極寒ではなく、雨も降っていないのが幸い。 大学で携帯とパソコンの充電をしつつ、 エクスポゼの準備があるアリス・マンローの Boys and Girlsを読む。 中世文学のRobert le Diableの授業の参考図書で Merlinも読む。 相変わらず、中世の文学は笑えます。 悪魔の子が18ヶ月で、人間のお母さんに 「母さん、あんたは俺のせいで死刑になったりしないから 安心しな」 とか言っちゃう。
読書の仕方と言うのは人によって様々だと思いますが、 私は本を読むときに、声が聞こえるタイプです。 正確に言うと、「聞こえるような感じがする」というのが 一番近い表現なのかもしれません。 ちなみに、この悪魔の赤ちゃんの声はもちろん 成人男子の声にキャスティングされていて、 このシーンでは思わず鳥肌が立ってしまった・・・
語学に限らず、勉強方法は自分にあったタイプの方法を選ぶと 効率がいいとよく言われます。
私は、ここで度々書いていますが、耳から覚えるタイプで、 気がつくと音読をしてしまう癖があります。 (公共の場ではしませんが)
だから黙読しているときでも、自分の中で 様々な声が聞こえています。 もちろん、会話だけでなく ナレーターの声だったり、 風景の音(風、海、木などの自然の音や、 戦争だったら『わー!』という怒声や 町だったら喧騒などの生活音) も「聞こえた」という感覚があります。
読書というのは、自分という空間の中に、 書かれている世界を立体的に組み立てていく作業です。 五感+第六感を使って人物から背景まで、 作者が作り上げたものを、再構築していく。 色彩感覚に優れている人は、 鮮やかに風景を思い浮かべることができるし、 私のように音が感じられる人もいるし、 シーンによっては匂いが主役になる場合もあります。 これがクロスして、自分の中で分類のつかない 「想い」が強烈に焼きつく作品が、プルーストの 「失われた時をもとめて」 だと思います。
文章の読み方については、そのうちまた書きたいと思いますが、 さて、18時。
電気屋さんはやってくると、 ヒューズを換えてくれて、帰って行きました。 大家さんから洗濯機について電話。
「Elle est morte, hein ?」 (彼女(machine à laver)、死亡ね?)
*おせっかい文法解説。洗濯機はmachine à laverと言います。 machine(マシーン)はフランス語では女性名詞。 仏語の特徴として、主語が物であっても これ、あれ(ceci / cela)などの無機的な言い方をせず 彼、彼女(il(s) / elle(s))と性を主張することで 自分の話の対象を絞るというやり方をします。 聞き手の中にはelleと言われて、 elle→女性名詞→machine というシェーマが自動的に出来上がり、 「ああ、今、洗濯機のことを話しているのね!」 とわかる仕組み。
これは、名詞に性がある言語ならではの言い回しなのです。 だけど、人格化することで物に親しみが沸いてくるし、 御老体洗濯機も、 窮鼠猫を噛むみたいな自爆の最後でしたが、 今まで働いてくれてありがとう、と思わず言ってしまいました。
洗濯機は新しいのを購入してもらえることになり こうして、Rapsodie électriqueなる一日は暮れたのです。
(写真はとんだヒューズ)