いつか見ようと思いながらなかなか見る機会がなかったAltmanが亡くなってしまった。 CarverのShort Cutsを映画化した監督。
大学に入ってからというものそれどころじゃなくて、全く映画に行く余裕がなくなってしまった。それまで月に4~5本は見ていた(つまり週約一本のペース)のだけれど。
映画がle 7ème art(第7番目のアート)と呼ばれる国だから、ナントみたいな小さな町でも3歩あるけば映画館にぶつかる。昔の映画やら掘り出し物やらをこだわって見せてくれるし、値段も安い。
ナントでは毎年11月に3大陸映画祭というフェスティバルが開かれて、なかなか普段では見られない国の映画を見ることができる。 しかし、なんでこの、みんなが「travailler comme un fou(気が狂いそうなほど忙しい)」時期にやるかなーといつも思う。
ここのところわたしの中で「王様」の映画は、2002年の映画祭で審査員特別賞を取ったカルロス・ソリン監督の Historias minimas。
「そこそこいい、どこにでもいる人」しか出てこない、時間が静かに進むロード・ムービーで、主役はおじいちゃん。
アップのカットがものすごく多いのだけれど、ほんのちょっと出てくる人も、主な登場人物もみんなそれぞれものすごい味がある。 そして、みんなに共通して言えること、それは 「笑顔がものすごくきれい。」
パタゴニアのなーんにもない砂漠の中をうねうねと道路が走り、限りなく透明で、時間が止まったような深い青空、凍るような空気、駆け抜ける風。 その青さのような笑顔をみんなが持っている。 物悲しくノスタルジックなギターやアコーディオンの音楽も、 がらんとした家も、 さびしく眩しいカフェ「カリフォルニア」も、 賢いワンコも、 皮肉が少し効いた笑いも、 おいしそうなローストや、パイや、まずそうなケーキ・・・ なんだかすべてに癒される。
考えてみると、カミュやレイモンド・カーヴァーにも共通する「minimas」な雰囲気や、何気なさというのが、わたしは好きなのかもしれない (インタビューなんかを読むとカーヴァーは自身が「ミニマリスト」と呼ばれるのはあまりうれしくなかったみたいだ。作品を作るときはすごく早いらしいが、同じ詩人でもTed Hughesみたいなタイプとちょっと違って、カーヴァーは結構推敲をしていたらしい)。
温度を感じさせない、無機質な程透明な流れに、よく顔を近づけてみるとちかっ、ちかっと星が瞬いているのが映る、そんな感触。
カーヴァーはもっと乾いたアーバンな感じだけれど、このソリンの映画は凍るほど寒くまぶしく、やっぱり乾いた大地なのに、もっと温かく、やるせなく、ヒューマンな感じ。アルゼンチンならでは、な感じ。 登場人物一人一人が、なかなかいいやつじゃん、という部分と、ちょっとねぇ・・・という部分を合わせ持って出てくるからリアルだし、プロの役者がほとんど出ていない(パン屋役のマッチョなおじさんの本業はケーキ屋さんだったりするらしい)ところに味があるのかも。
タイトル「ヒストリアス ミニマス」はカメラの品名らしいです。ロードムービーを取るのに適したもので、この映画を撮るときに丁度監督の手に入ったらしい。 日本で上映されてないのかもしれませんが、こういう映画って、どこかでやっててくれるとほっとできていいのになぁ。