Trouville - Savignac.
パリに着いた翌日の夜、WILCOのコンサートに行くので、チケットを取りに、最寄りのFnacに行く。これは、例によってLesInrocksのライブ情報で発見して、Le Grand REXのサイトで予約したもの。 チケット発券や予約は2階の奥まった部屋にあって、眼鏡の可愛いお姉さんが担当してくれる。 ちょうどお昼時で、隣のドアから出て来た他の職員に 「Bon appétit !(ボナペティ、直訳すると「よい食欲を」食事前の挨拶)」 と声をかけていた。テーブルについていなくても、こうやって使うのだった・・・と、今更納得する。
Le Grand REXは、老舗の映画館兼ライブハウス。内装も、ひなびた感じのアトラクションみたいで面白い。 2階席は自由席だったので、開場ジャストに行ったら、まだガラガラだった。2階の一番前の席を陣取る。入り口で、「カメラは持ってない?大丈夫?」と、バッグの中身を申し訳程度に覗いた警備係は、水のペットボトルを取り出し、「このキャップはもらいます」と回収してしまった。何対策なんだろう・・・テロ?
時間が近づくと、みるみる席が埋まって行く。見回す限り、アジア人は我々二人だけ。一階は満席。 ライヴが始まって盛り上がって来た頃、一階の中央正面にカップルがつかつかとやって来て、通路のど真ん中に二人で立っている。男性が、女性の肩を抱き、「お前の為に、WILCOを呼んでやったんだぜ」と言わんばかりに、二人の世界に酔っている。しばらくすると、警備員がうんざりした感じで二人を追いやり、横のドアから追い出した。 WILCOのステージはとても素敵だったのだけれど、私達は暗くなるや否や瞼が重力に負け、朦朧としながら必死に聴く。同じような曲が多いバンドの上(実際、ヴォーカルのトゥイーディーがMCで「結構飽きるだろ?」と自虐的な笑いを取っていた)、時差ぼけが発揮されたらしくて、油断すると、首がもげる位の勢いで落ちてしまうので、慌ててリズムに乗っている振りをする。
気合い十分で来ながらも、最前列でがくがくと赤べこのような謎の動きをするアジア人二人組・・・滞在3日目位だったらもっとちゃんと楽しめたのかもしれない。
リベラシォン(新聞)の一面がボブ・ディランだったので買ったら、シテ・ドゥ・ラ・ミュズィック(音楽博物館)でボブ・ディラン展が始まるというニュースだったので、翌日、行くことに。パリでは、大抵メトロの壁のポスターか、新聞(リベのことが多い)で何かを見つけるから、あまりがっちり予定を組んで行かない。
ボブ・ディラン展ももちろん良かったのだけれど、音楽博物館がめっぽう面白かった。
歴史順に沢山の楽器が展示してあって、実際にそれぞれの音を聞きながらたどって現代までツアーすることができる。見たことのない形、バカでかい大きさ、バカバカしい装飾、まがまがしい装飾...の楽器が勢揃いしていて、最上階の近代コーナーでは、テルミンやら、宇宙怪獣を作る研究所にありそうなコンソール型のシンセサイザーやらが、ぞろぞろと並んでいた(このコーナーで夫君のテンションはうなぎ上りになった)。 うちにある、ヤマハのDX7が展示してあって、ちょっと見直した(掃除のとき、少々邪険にしていたのですが、大ヒットモデルなのです)。
ゴール地点には、何かしらの生演奏を聞くことができて、私達が行った日はドラムだった。多分、音楽院の生徒か若い先生と思われるお兄さんが、ラフな感じで説明しながら、スティックをブラシに変えたり、マレットにしたりして音色を変え、演奏してくれた。
次の日は、パリを出て、TGVで2時間程のトゥルーヴィルTrouvilleという街に行く。ここは、私の好きなポスター画家、レイモン・サヴィニャックが亡くなるまで過ごした、海辺の小さな街。すぐ隣のドーヴィルはカジノで有名で、トゥルーヴィルも避暑地として、夏には観光客で溢れかえる。トゥルーヴィルの観光局の隣に小さなギャラリーがあって、ここに展示してあるサヴィニャックの作品を観るのが目的だったのだけれど・・・
「今日は休館です」
そ、そんな・・・。今はオフシーズンのため、人も少なく、別の美術館も4月まで休館とはわかっていたし、観光局のHPを見ても休館情報が出ていない(そもそも、その常設ギャラリーの情報も出ていなかった)のに。 仕方なく、びゅうびゅうと海風の吹く中を、町中に散らばっているサヴィニャックのポスターや壁画を探して歩く。
あまりの寒さに、お昼になるとすぐ、有名なシーフードのお店に入って、久しぶりのムール・フリットを食べる。 隣にフランス人のファミリーが来て、私達の山盛りのムール貝を見たおばあちゃんが、 「あら、ムールおいしそうね」 とお嫁さんに言うが、眼鏡のお父さん(息子さん)が 「あれは、シーズン外だから小さくてだめ」 と却下する。いいんだい、日本にいるとこんなに沢山のムールなんて食べられないから、食べてるんだい、何にも知らない観光客めと思ってくれて結構、と心の中で言い訳をする。
ここのお店は店内にサヴィニャックの様々なポスターが飾ってあるのだけれど、これが一番笑えた。
ちなみに、このお店のポスターもサヴィニャックが描いたもので、食後のコーヒーに付いて来るチョコの包装用紙になっていて可愛かった。
向こうの席では、おじいちゃんとおばあちゃんの夫婦がテーブルに付き、おじいちゃんがウェーターを呼び、「あー、ワイン、赤の、なんだっけな」と、大声で注文をする。おじいちゃんは、その後、サルコジの悪口を始めて、おばあちゃんにたしなめられる。私達が店を出ると、外のテラス席で、タバコを吸いながらコーヒーを飲んでいた。しゃれている。この辺の裕福な夫婦なんだろう。
ギャラリーが観られないので、隣町のドーヴィルもいってみっかと、橋を渡って歩き出したが、帰りの電車を早められるかもしれないと、一度駅に戻ることに。窓口でまもなく出るパリ行きの電車を教えて貰ったところで、雨がまってましたと、ざんざか降り出した。2本ほど早い電車に乗って、パリに戻る。
時間が早かったので、予定を変更してポンピドゥーセンターで今日から始まったマティス展を見に行くことに。マティス展は、あまりたいしたことがなくて(3年位前に県立美術館でやった「マティスとルオー展」の方がよっぽどおもしろかった)、ついでに隣のダンスに関するエキスポジションも観る。一階の本屋さんがとても面白いので、じっくり眺めた後、一冊絵本を買おうとしてポケットの小銭入れがないことに気づいた。
私は、フランスにいる時には用心して札と小銭とカードは別々にして持っていて、小銭はポケットに入れているし、トゥルーヴィルでちょこちょこ使ったので5ユーロも入っていなかったのだけれど・・・スリにはあっていないので(さすがにコートのポケットに手を突っ込まれたらわかる)、レストランで上着を脱いで隣のシートに置いた時に落ちたのじゃないかと思う。今回の旅で、何かしらやってしまうと思っていたので、自分でそういう結果を作ってしまった。思い出のガマ口をなくして、茫然とする。(つづく)